山羊にタイト


 たまにはこんな服はどうだ、とデスマスクが投げ渡してきたのは、つやつやとした布の黒に近い深緑のワンピースドレスだった。
「着たことがない」
「着せてやる」
 言外に着たくないと言ったのだが、逆効果だった。
 ほら、脱げと服に手をかけられるのを払う。さすがにそれは嫌だった。
「下着もそろえてあっから、それに換えろよ」
「なんで下着まで換える必要がある」
「お前、あの今時ガキでもつけないような下着でそれ着られると思うのか?」
 そういって笑う奴の腹に拳をひとつ入れて、ドレスをまじまじと見る。確かに胸はない。悪かったな。
 ホルターネックのドレスは、胸の部分には裏から別の布地が当ててあるからあまり開いてはいない。
 問題は背中。
 全開だ。これは、背中のかなり下まで見える。
「……いや、恥ずかしい。無理だ」
「折角買ってきたんだし、一回くらい着ろって」
 俺は廊下にいるから下着替えて服引っ掛けたら呼べよ、と言って、奴は部屋を出る。
 折角、という言葉にため息をつき、服を脱いだ。


 結局一人で出来たのはなんとか服を「つける」までだった。
 到底着たとは言えないレベルの惨状だったが、奴はふうん、頑張ったじゃねーかと笑って、服を綺麗に直していく。
 膝下までのタイトスカート。着てみてやっと、下着が上下揃えてあった理由がわかった。
 要するに身体のラインが目立つ服なのだ。恥ずかしい。その上動きづらい。
「終わったぞ」 
 そう言って、出来映えを確認するように、デスマスクはいろいろな角度から見てくる。
 それが嫌だったから、奴の隣に立って見上げる。止めろと。
 ん、と奴が不思議そうな顔を一瞬だけして……すぐににやりと笑った。
「見立て正解。お前やっぱりこのラインがいいわ」
 背中と腰の間に手のひらの感触。つい思い切り足を蹴り飛ばす。
 とは言っても、動きづらい格好だから全力ではない。
「いってえな、おい、尖った靴でお前の力で蹴るなって」
「――っ、コレは、動きづらいから嫌だ。別のにしろ」
 それも正解だけれど、本当は違う。
 奴も解ったようで、了解とだけ言った。

「そうだな、俺以外に見せんなよ、コレ」
 脱ぐのを手伝いつつ、そんな戯れ言を吐いてくる。
「じゃ、別の持ってくるわ」
 そう言いおいて出ていく背中に、少しだけムカついた。