ふたりの言葉
- 2018/04/07 22:33
4/6がシャカムウの日だったらしいので、遅刻ですがちょっとだけ小話。
息をしていないようだった。
ふと目が覚めて見つめたその顔があまりに丹精で、作り物のようで手を伸ばすのに躊躇をした。
紫がかった髪を怖々と撫でると小さな目覚めを許容するような声と共に、重たげな睫があがる。
「ああ……寝てた」
ふう、と目を覆って嘆息する彼は、さっきまでの人形のような、作り物のような気はしない。きちんと息を吹き込まれた人だった。
おかしいことだ。さっきまでちゃんと肌の温度を感じていたのにそんなやことを思うなんて。自分が目を開けたらそう思うなどと。普段から閉眼しているせいかもしれないと、自嘲の笑みが浮かぶ。
そう安堵している彼を神秘的な翠玉のアーモンド・アイがゆっくり捉えた。
――彼を喪ったら、どれだけ恐ろしいだろう。
さっきまでの事はうっすらと覚えていた。丁度微睡みかけていただけだったから。
隣で寝ていた彼が、半身を起こした気配がしたから。
ずっと見つめられている気がした。その彼の顔が、とても戸惑っている気がして不思議だった。
何も怖いことないはずなのに。またいっしょにいることが出来て、それで幸せなはずなのに。
こちらを見つめる彼の顔は、強張っていた。何か大事なものを触るように、金糸の髪が彼の肌を擽った。
そう、生きている。大丈夫。目を開けて見つめたのは澄んだ空のような目。
「……寝ていたのか」
安心したような声の主は、普段と同じに戻ったようだった。ふと、過日を思う。
――また喪ったらどれだけ悲しいだろう。
身を起こして、互い自然に唇を重ねる。二人ぼっちの今だけで充分満たされている。
「――シャカ」
そのまままた身を食むように滑らかに手が落ちる。
「――ムウ」
身体を密やかに五指が蹂躙する。そう、それでいい。
ふたりぼっちすぎて、互いの境界が解らない。だから互いの思ったことが解ってしまう。境界線を引くように、手が動く。そう、切り離されていく幸せ。
そうしてもお互いが解るときの尊さ。
何を考えても、この瞬間が全て。わかり合える幸せに彼らは行為に没頭していった。
戸川純の「ふたりの言葉」を延々と流しつつ書いてました。
最初はだらーっと日本の映画館で映画を見る話にしようと思ったのですが、直近で見た「まあだだよ」と小話のテーマに近い「水の女」どちらの映画を見せようか迷い、更に映画描写に迷い、そちらは没にしました。
ちまちまリハビリに何か書きたいところです。